芋水割り

立派な人間

『Permission to Dance』の構文迷宮から脱け出せない

BTSファンの方がこの記事を読むと非常に不愉快に感じることがあるそうです。僕もBTSを貶める意図を持ってこの記事を書いた訳ではないのですが、この記事が負の感情を人に起こさせるのは悲しいので、読むか読まないかの判断を各自でしてください。しかし僕はこの記事を楽しみながら書いたのも事実ですし、読んで楽しんでもらえる層がいるだろうとも思います。

なぜこの記事を不愉快に感じる層がいるのか。自分は何を面白がっていたのか。自分のどのような態度を修正すべきなのか検討し、記事の末尾に追記しました。

 

 

 

 

 

 


BTSが今年の7月にリリースした『Permission to Dance』が何を言いたいのか分からない。お手上げ。宇宙を彷徨うカーズになった気分だ

 


いや、なんとなくなら分かる。

 


「うるせぇ!!!踊ろう!!!!!!!!!

  \\どん!!!//

 


 お"お"!!!!!!!!!!!!!!!! 」

 


である。

 


「コロナだから踊っちゃダメだよ…」と建前で本音を隠す僕たちに向かって「でも踊りたいんだろ?(イケボ)」と防弾跡部が『破滅への輪舞曲』を迫ってくる。そんな曲である(そんな曲ではない)。

 


ここで注意すべきは、筆者が執拗にジャンプ漫画で例えていることには何の意図もない。ただジャンプが好きなだけである。

 

BTSは歌う。
サビの冒頭で“I wanna dance!”

サビの最後に“We don't need permission to dance!”

アーイェー!ダンスダンス!

 


ブラザー魂(ソウル)である。なんとなく「踊ろうぜ」と主張していることは分かる。キャッチーなメロディー。自然と体が横に揺れてしまうポップなトラック。ジョングクの整ったお顔。ハッピーバースデー。十分だ。全てが超気持ち良い。

 


でも分からない。英語が。特にサビの。俺はBTSの全てを正確に理解したい。

 


AメロBメロはまあ良い。分かる。

 


“It’s the thought of being young

When your heart’s just like a drum

Beating louder with no way to guard it”

→踊りたいんだろ?

 

 

 

“When it all seems like it’s wrong”

→でもコロナが…

 


“Just sing along to Elton John

And to that feeling, we’re just getting started”

→踊りたいんだろ?

 

 

 

“When the nights get colder

And the rhythms got you falling behind”

→でもコロナが…

 


“Just dream about that moment

When you look yourself right in the eye, eye, eye”

→踊りたいんだろ?

 


AメロBメロはずっと「踊りたいんだろ?」と挑発しているだけである。何も分からないことはない。全て分かる。

 


問題はサビだ。僕はサビが分からない。

とりあえず文字通りに読む。

 


“Then you say I wanna dance”

→「(素直に自分の気持ちを見つめると、)おまえの次のセリフは 踊りたい という。」

いきなりのジョセフ・ジョースターロケットスタートである。直前のwhen節が従属していると解釈(whenとthenが対応してるっぽい)して一応括弧内に書いた。

要は「踊りたいんだろ?」である。

 


“The music’s got me going

Ain’t nothing that can stop how we move yeah”

→「音楽にノッて体が動いてしまう 誰にも止められない yeah」

おやおや身体は正直だねぇと煽ってくる。BTSは根っから攻め気質だ。

要は「踊りたいんだろ?」である。

このあたりからより「(踊れよ)」という威圧感が増してくる。

 


“Let’s break our plans

And live just like we’re golden

And roll in like we’re dancing fools”

→「理性を飛ばしてバカになれ〜!(超訳)」である。

突然アリーナ席に向かって叫ぶももクロになる。

 


“We don’t need to worry

‘Cause when we fall we know how to land”

→「落下してみないと着地の仕方は分からない。だから大丈夫だ。問題ない。」

ひどい。とにかく「後先考えずに踊れよ」と崖から突き飛ばそうとする。イーノックは他人を突き落とさずに自分で飛び降りた分まだマシだ。

 


“Don’t need to talk the talk, just walk the walk tonight”

→ココ!ここが分からない!とりあえず他の和訳サイトとかと同じように解釈する。

前半の“〜 not talk the talk, 〜 walk the walk ”は口先だけで終わらせずに有言実行しようという慣用句である。“need”は状態動詞で命令文になることは基本無いので主語にYouを補って(適当)、walk ~ tonightは命令文として「ただ口に出すだけじゃなくて、さあ今夜実行しよう」となる。

 


何を実行するのか?

 


もう考えるまでもないが。「口だけ」というのはサビ冒頭の“Then you say ‘I wanna dance’”であろう。まさに“You”たちは「踊りだい!」と、エニエス・ロビー編で初めて心の奥底に眠っていた本音を吐露したニコ・ロビンの如く叫んでいる。“want”とは語源を辿ると元は「欠乏」であり、ロビンはまさに「死」を目前にして「生」を求めたのと同様、“You”たちはまさに“dance”が欠乏している状態である。“I wanna dance”と口で言っているだけで、まだ“dance”は実行に移される前なのだ。

要は「踊れ!!!!!踊りたいと言えー!!!!!」と繰り返し主張している。

そしてこう締めくくる。

 

“'Cause we don’t need permission to dance”
「俺たちが踊るのに何者の許可もいらねぇんだから」

 


鮮やかなタイトル回収である。これが『Permission to Dance』何も分からないことはない。分かる。

 


しかし懐疑的な気分を拭いきれないのだ。僕は。この曲の歌詞に対して。なんだか躓いてしまう。

 


最初僕がなんとなくこの曲を聴き流した時、サビの最後のところを上に示したのとは別の解釈で読んだ。

 


“Don’t need to talk the talk, just walk the walk tonight  'Cause we don’t need permission to dance”

→「ただ今夜、あてもなくおしゃべりして、あてもなく歩くことに、誰の許可もいらない だから踊ることにも許可なんていらないんだぜ(踊ろうぜ)」

 


これはこれでそれっぽくない?

“need”が立て続けに登場する。英語とは同じ単語を繰り返すことを避ける傾向にある言語(と僕は習った)なので、敢えて同じ語を繰り返すセンテンスには色々連想してしまう。僕は“need to talk the talk”において“need”の後ろで“permission”が省略されているのだろうなと思った。同様に“just walk”の直前に“we don't need to”が省略されているのだろうと。受験英語であれば鉄板の流れだ。

そしてこの予測をもとに解釈を進めていくと、“〜 not talk the talk, 〜 walk the walk ”も慣用句の意味ではなく、まさに「ただ話す(ことそれ自体の動作)」「ただ歩く(ことそれ自体の動作)」という風に読むと意味が通っていく。そして“'Cause”だ。僕はなんとなく勝手に“This is because”が省略されてんだろうなと思った。だってそうしたら意味が通るからだ。純ジャパの俺は知っている。「英語ネイティブスピーカーもけっこう無茶なことするときあるよね」ってこと。“This is because”→“'Cause”!そんな用例聞いたことないけどたぶんいける!

 

言いたいことは分かる。“〜 not talk the talk, 〜 walk the walk ”という慣用句を勝手に文字通りの意味で解釈した根拠があまりに弱い。でも“talk the talk”というフレーズは、あの宇宙的大ヒット曲『Dynamite』の歌詞にも登場するのだ。

 


“Word up talk the talk just move like we off the wall”

→“Word up”、「いぇーい!」みたいなこと。“just move like we off the wall”、「なんかヤバいことしようぜ!」みたいなこと。

それに挟まれる“talk the talk”である。推して測るに「騒げー!」みたいなことであろうよ。こんな陽のコンテクストで、「口先だけ」みたいな否定的なニュアンスは読み取るべきじゃない。そんな風に去年のBTSはこの特徴的な“talk the talk”というフレーズを歌ったのだ。このフレーズをBTSは肯定的な意味合いに捉えている前例があるのだ。

 

そしてもうひとつ。韓国語には同じ言葉の名詞と動詞を連続させる表現を好むという傾向がある(ように見える)(超主観的な予想)。

例えば韓国語で「踊る」は“춤추다(チュムチュダ)”となるが、“춤”が「踊り」という名詞で、“추다”だけでも「踊る」という動詞なのだ。これと同様に、同じ言葉の動詞と名詞を重ねてひとつの動詞のフレーズとして使用するという事例は韓国語において多く観測されている。「踊りを踊る」も「踊る」もだいたい一緒なのでは?外野からは想像のつかないニュアンスの違いはあるだろうが。

そしてこのことから、韓国語ネイティブスピーカーにとって、“talk the talk”は、もうほぼ“talk”なんじゃないだろうかという予測を立ててもギリ怒られないのではないの?汗汗

 


以上の理由から、『Permission to Dance』内の“talk the talk”というフレーズの意図するところが僕には分からないのである。“talk”と連動する“walk”の意味も。そして“to talk /to walk”の直前に“permission”がいるのかいないのかも。迷宮入りです!対戦ありがとうございました!

 


もういっそ、「踊るのに許可はいらない」なんていう回りくどい言い方でなく、「Let"s Dance!!!!!!!! foooooooo!!!!!!!」みたいに歌ってくれよ!

 


でもそんな奥手なBTSのことも愛してるぜ…

 

 

 

 

 

 

追記。

正直、ネガティブな反応があった瞬間に、さっさとこんな記事消してしまいたかったのですが、何がダメで、何がダメでなかったかはしっかり検討しないといけないと思いました。必要十分なだけ謝るために。

 

まずこの記事はたしかに終始穿った目線と底意地の悪い態度で曲の歌詞を解釈していっています。

ただ僕のおこなった解釈は当該楽曲やBTSというコンテンツ、メンバーを貶める意図は一切ありません。

実際こんな風にも読めるかもしれないよねという意見も変えたくない。

 

しかし、下品で侮蔑的なニュアンスを持つ言葉で注目を引こうしている箇所も実際あるし、それはやはり、偏見やハラスメントを助長し社会的に悪影響があるので修正します。ごめんなさい。

 

でもたぶんそこを修正しても負の感情を抱いてしまう人はいる。

 

それはそのような人たちがメンバーの人柄や、アーティスト活動の哲学を深く愛しているからなのだろうと思う。

新型感染症を通して地球全体が重苦しい雰囲気に包まれるなか、この『Permission to Dance』という曲は、「手を取り合ってこの苦境を乗り越えよう。そして家族や友人と音楽を共有する未来を取り戻すための勇気を出そう」という愛に溢れたメッセージのこもった楽曲である。

そして、そのメッセージにまさに勇気づけられた人々にとって、それを小馬鹿にするように見える(本当に馬鹿にする意図は無い)言説は許しがたいだろうと思う。

 

ただ誤解されたくないのは、僕はこの曲をリリースされて以降、今日に至るまで、本当に頻繁に聴いているし、大好きな曲です。BTSのことも本当に好きなのは間違いない。定期的にMVを見返すくらい。そこは誤解されたくない。

ただ、僕の興味の中心は『Permission to Dance』、ひいてはBTSの活動のメッセージにまつわる側面にはありません。

 

ダンスミュージックを研究し尽くした果ての刺激的なトラック、色彩鮮やかな映像演出、洗練されたボーカルとダンスのテクニック。そこに感動しています。

 

そして何度も繰り返し視聴しているうちに、歌詞の内容について、ピースフルでない読み方もできるなぁ、複数の解釈ができそうだなぁと、言葉遊びを楽しむなかで、この記事を書きました。

 

繰り返しますが、BTSや『Permission to Dance』という楽曲を貶める意図はなく、作品の歌詞という部分のみを切り取って色んな角度から見て遊んでみただけなのです。

 

この記事に書いてあるようなことをBTSは言っていないという批判に僕は全面同意します。BTSこの記事に書いてあるようなことは言っていない。

BTSと『Permission to Dance』はとても美しいメッセージを発信しているのに、斜めから見たら、演者の意図と異なる別の読み方ができる。それ自体は絶対に楽しい。

 

正直、その物事の多面性を切り分けずに、不愉快になったと怒る人には気の毒だと思いこそすれ、やっぱり僕の態度は修正したくない。でもあなたと僕はこれ以上関わっても得がないので、お互い上手に世界を住み分けていきましょう。